P52「沈黙の世界」

沈黙の世界
冬のある日、山に行きました。
人もまばらなその場所は、透明な音が耳の奥まで重く響き。
遠く都心の風景は白く霞み、
水を湛えた湖のように
何かで満たされているように見えました。
沢山の人の選択で作りあげられる一日。
賑やかな街の景色も、
離れて見れば静けさを湛え、
ゆるやかに日は傾き、時間が過ぎていきます。
混んでいる電車に乗る・乗らない
この信号を渡る・渡らない
言う・言わない
いつの日のことだったか、
記憶にも残らない小さな選択が繰り返され、
人の営みが澱のように溶け込む景色を
美しく、愛しく感じた気持ちを持ち帰り、
自分もその多数の一部であると理解しながらも、
美しいと思えるもので満たした人間らしい絵を描きたいと思いました。